フォルダがさがさしてたら、昔書いたぴく悪SSが出てきたので収納。
ややシモネタまじり注意……。
「冬はこたつでみかんですよねぇ。…院長、流石に部屋に暖房器具がほしいです……さ、さむい… 」
↑ このエリカさんbotの呟きから勝手に練成したものです (・ω・*)b
コウの実家は大病院という密かな設定。
あとコウは兄兄姉姉姉弟の6人兄弟の末っ子だという実にどうでもいい設定があったりなかったり。
お借りしました→エリカさん
* * *
世の中は不公平に出来ている。
たとえば姉妹や看護婦仲間。
誰とは言わないけれど、あえて特定する必要もなくどの子も、私より綺麗で明るくて、魅力的だ。
あの子は笑顔が素敵でみんなに好かれる。
彼女は魅惑的な肢体で異性を魅了せずにおかない。
あの姉は有力組織のエースとして活躍している。
あの妹は格好いい男性に肩を抱かれ、幸せそうに笑っていた。
誰も彼もが私より優れていて、幸せで、恵まれている。
もうどうせ今にはじまったことじゃないから、諦めているのだけど。
寒い気持ちを味わうのは慣れていても、いい気分じゃあない……。
腕を抱いてぶるりと震えた。
空はもう漆黒に閉ざされ、白い息がうっすらと月に昇っていく。
院長の少々やりすぎなケチ、もとい節電のせいで、物理的にも寒かった。
院内はとても寒い、たんまり金を払っている患者の部屋を除いては。
ふぉ、とあたたかい空気が触れた。
怪訝に思い、いつも床を這っている視線をあげる。
住み込みスタッフの部屋がある一角。
空調なんてあるわけもない、おそらく暗黒街でも一番寒いんじゃないかとこっそり思っている場所だ。
ちなみに、夏は釜の中のように熱い。
「…………?」
熱源を感じる。
間違いなく温かい空気が、僅かながら流れてきていた。
そのぬるい空気を辿る。出所はすぐに突き止められた。
「…………うっわ」
嫌だなァ、は発音されずに喉の奥に消える。
割と新入りの医師だか医師見習いだかの部屋だ。
バカみたいに笑っていてアホみたいに懲りない、正直なところマジ鬱陶しい青年。少年?
実年齢は青年でも脳ミソも見かけも小学生だろう、あんなの。絶対被ってる。何がとは言わないけど。気持ち悪いから。
このまま見なかったことにしようか、としばし考える。
……ダメだ。中で何か燃えてたりしたら絶対自分の部屋まで延焼する。
部屋の主は燃え尽きてくれて一向に構わないが、自分の部屋や医院の施設に危害を加えさせるわけにはいかない。
あの腐れオタクDTめ。どんだけ迷惑をかける気だ。
心の中で悪態をつきながら、消火器の位置を確認し、
彼女はその部屋のドアを蹴り開けた。
「うっわ!? エリカさんどーしたんですか」
ぱちぱちと無駄に大きい目を瞬かせ、きょとんとした顔で愛媛コウが自分を見ていた。
それはまぁいいとしよう。気持ち悪いけどもう慣れたから耐えられる。
耐えられないのはこの、
「……なんですかこの部屋はああああァァァ!!」
「えっこのサクラちゃん等身大フィギュアですか? これヤフオクで300万も」
「そんな人形どうでもいいです! そんな屑よりこの……この……」
怒りで震えて声が出ない。
バカは目立つ人形やポスターを見回してどれかなと首をかしげている。
「このエアコンは! このストーブは!! このコタツは、電気じゅうたんは何なんですかこれええェ!!??」
実に信じがたい高級品(エリカ比)が、8畳の下宿部屋に詰め込まれていた。
「なんでこん…こんなもの……」
「あっ、うち実家が大病院なんで、仕送りとか結構いっぱいしてもらっちゃってて~」
末っ子なんでみんな過剰に心配してくれるんですよねーあはは、と彼は罪のなさそうな顔で笑う。
今までの人生、いろんな人にいろんな殺意を抱いてきたが、その最大値を間違いなく今更新したとエリカは思った。
「コウさん」
「はい? あ、エリカさんも蜜柑食べます? やっぱ冬はコタツで蜜柑ですよねー」
「暗黒街は弱肉強食って、知ってます?」
「もちろんです! いいですよね、強くないと生き残れない。くー、萌えです!」
エリカはにっこり笑った。
私ずっと搾取されつづける不幸な女でしたけど、そろそろ奪う側に回ってもいいですよね。ね、パパ。
きつい仕事で荒れた細い手で、妙な赤紫に染められた髪をがっしり掴む。
「へ、え、エリカさん? ……い、いたい、痛いですっ」
答えは返さず、力ずくでコウをコタツから引き釣り出した。
「うぅ、痛い……エリカさん、ハゲちゃったらどうするんですかー」
「好きなだけハゲ散らかせばいいですよ、この童貞」
「な、は、初めては誰でも好きな人と」
「うるさい短小。お茶入れてきてください、3分以内」
さっきまでコウが入っていたコタツにぬくぬくと納まり、エリカは舌打ちと共に吐き捨てた。
「もしぬるかったりしたら千切り取りますから、そのポークビッツ。ほら、もう30秒」
その弱者をいたぶる獣の笑顔は最高にイイ顔だった、と後にコウは語ったという。
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